照恩寺ロゴ

照恩寺住職によるブログてらすブログ

2026/9/24

Art

西村知己「隻鳧(せきふ)」

Photo

 8月11日の朝7時前、私達の寝泊まりしているアパートへ、掛水さんという近所のおじさんが新聞の切り抜きを届けてくれている。そこには
「昨年の秋に亡くなった大木裕之氏の率いるチームM・Iが、今年もよさこい祭りに出場した」と、他ならぬ私達のことが、写真付きで紹介されていたのだった。
 若い記者さんから事前に何度も取材を受けていた。けれどもこうして近所のおじさんの手で届けられてみると、驚きと歓びが戻って来るような思いがした。
 私達のリーダーにも、祭の明くる朝は駅前まで、新聞と缶ビールを求めて出かけてゆく習慣があった。プロジェクトを立ち上げた2000年から2015年くらいまでは、新聞もよく取り上げてくれていたのだ。リーダーの習慣には、それを楽しみにしていたところもあったのだろう。

 気さくなような掛水さんだが、みんながよさこいのために集まってくれる前まで、私とは少々ぎこちない関係にあったのだ、道ですれ違っても視線を外されるような・・・・
 大木裕之という、向かいのアパートに住む芸術家の訃報を、掛水さんはやはり新聞で知らされたのだろう。そして新聞に書かれないことだが、芸術家が1人ではなく2人で暮らしていたことを彼は知っていた。その残った片割れが今後どうしてゆく積もりなのか、掛水さんは見ないふりで見守っていたのではないだろうか。
 ある時、私が
「お騒がせしてしまったようですみません。」と思い切って声をかけると、掛水さんは怒ったような顔付で「あそこにずっと座っていたんだぞ。」と、アパートの二階を見上げながら言ったのだった。

 亡くなるひと月前の9月、私のパートナーは外廊下に椅子を出して座っていることが多かった。そこからは掛水さんの家を見下ろせるばかりでなく、その向こうの城山の稜線、パートナーによると
「星をすごく近く感じる。」とのことだった。
 パートナーはよく私に、山に上って来るよう促した。かつては2人で散策していた道だ。その道の上で私は必ずと言っていいほどヘビと出っくわすのだった。
 アパートへ戻ってパートナーに、今見て来たことを報告しようとすると、私が口を開くより前に、彼からVサインが送られて来た。この片割れの顔に、自分でも知らない間に、笑顔が戻っていたからだろう・・・・
―――
西村知巳|Tomomi Nshimura
1978年 山口県生まれ
2002年 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業
2004年 映画美学校ドキュメンタリー初等科修了
主な個展
2020年 「コミュニティアート」久通地域総合コミュニティセンター、すさきまちかどギャラリー(高知)
2019年 「AWARE」switchpoint(東京)
2018年 「写真占い」ArtCenterOngoing(東京)
2012年 「アニマ」3331Gallery(東京)
主なグループ展
2021年 「10年目の今、考える」藁工ミュージアム(高知)
2020年 「超たまたま」シャトー2f(東京)
2019年 「イノビエンナーレ」いの町(高知)
2019年 「CSP6」東京造形大学付属美術館(東京)
2019年 「Nnrikabe」てつおのガレージ(栃木)
2016年 「ネオシチュアシオニストの前日」URANO(東京)
2015年 「ヤマガタ・ラフカット!」山形国際ドキュメンタリー映画祭(山形)

―――

・展示名:西村知己「隻鳧(せきふ)」

・期 日:2026年10月8日(木)~10月25日(日)

・会 場:照恩寺(東京都小平市美園町3-23-20)

・開催時間:14:00~18:00

・お休み:毎週火曜日・水曜日、10/24(土)

・入場料:無料 

・備 考:駐車スペース5台まで

【同時開催】
・SHOUONJI BOOKSHLF 
 SHOUONJI selection

PageTop